皆様の身の回りのもので、100歳を超えているものはありますか?
大量生産、大量消費、大量廃棄が前提になっていた日本の高度成長期を経た現在、
100年前に製造されたものは稀なはずです。
今回お贈りするのは、戦禍をくぐり抜けて生き延びた2台のピアノの物語。
ピアノにも人格が存在する? 本当に美しい楽音とは?
アンティークピアノの魅力を、安井耕一先生のガイドで探求します。
使用ピアノご紹介 Pianos

STEINWAY & SONS M170
1925年 ニューヨーク製
ウォルナット外装
7,700,000円(税込)
可能な限り純正部品を用いて完璧にオーバーホールされ、一部にクロムメッキを施すなどしてモダンデザインに生まれ変わりました。スタインウェイらしい華やかさを持ちつつ、家庭的な温かさを湛えた音色です。
ホールに響き渡る濁りなくクリアーで艶やかな音は、ピアニストの思いを自在に表現してくれるスタインウェイが銘記である証です。スタインウェイは、一世紀以上にわたって世界の第一線で活躍する数多くのピアニストたちと親交を深めてきました。ロシアを代表する巨匠アントン・ルービンシュタインによる1872年から1873年の米国コンサートツアーの成功は輝かしい歴史を築く原典となり、これによりスタインウェイアーティストプログラムが生まれました。その後ホロビッツ、クララ・ハスキルといった巨匠に続き、現在でもマレイ・ペライア、ウラディーミル・アシュケナージ、ユジャ・ワン、内田光子ら世界中のスタインウェイアーティストが数々の名演を繰り広げています。
いまやピアノの代名詞にまでなったスタインウェイ。その歴史はあくまでも“品質”にこだわったピアノづくりから始まりました。創業者ヘンリー・スタインウェイはドイツでピアノ製作者として認められると、より充実したピアノづくりのためアメリカへと移住。1853年息子達とともにニューヨークにスタインウェイズ&サンズ社を設立して以来、親子一丸となって創意工夫を重ね、技術革新に努め最高のピアノづくりに邁進しました。ヘンリーの「可能な限りの最高のピアノをつくろう」という要求は、はじめからスタインウェイの卓越した品質への義務を意味するものでした。スタインウェイの機構は今日もなおその独自性を誇り、世界中のピアノづくりの規範となっています。そして、この卓越した製造技術はピアノづくりの全工程のうち80%以上を純粋に人の手によって仕上げる「手作りの技術」によって成しえています。だからこそスタインウェイのピアノ一台一台がオリジナルであると同時に芸術作品であると高く評価されるのです。

C.BECHSTEIN A189
1913年 ベルリン製
ローズウッド外装 85鍵
5,500,000円(税込)
透かし彫りの譜面台、豪華な彫刻を施された脚柱など、現代のピアノにはすでに失われた様式感が詰まった一台。
ローズウッドの外装も現代ではほとんど見られなくなりました。
戦前、音楽界を一世風靡したベヒシュタイン社。往時の姿そのままに、巨匠の音楽を現在に伝えてくれます。
柔らかく純粋でぬくもりのある音色を基調に、繊細なピアニッシモから迫力のあるフォルテッシモまで、全音域に渡って旋律を美しく歌うベヒシュタインピアノ。さらに、複雑な和音の中にあっても旋律部分が埋もれることのない透明な響きもその特徴です。
創業者カール・ベヒシュタインは、フランスとイギリスでのピアノ製造の経験を元に、1853年にベルリンで独立。「タフな演奏」と「きめの細かい演奏」の両立という時代の要望にこたえるピアノ作りを開始しました。現在のベヒシュタインピアノの個性を確立したのは、後のベルリンフィル指揮者で大ピアニストのハンス・フォン・ビューローやリストといった巨匠たちとの親交から生まれた要求でした。
ベヒシュタインの最初のコンサートピアノは強健で最新の風貌を備え、1856年に完成され、ビューローはコンサートでこれを弾き、大成功を収めました。こうしてベヒシュタインピアノは高い芸術性と堅牢な造りを持つピアノとして広く知られるところとなり、世界的な名声を確立したベヒシュタインですが、現在でも数多くの一流アーティストたちがベヒシュタインを使用し、惜しまぬ賛辞を寄せています。偉大なピアニストたちが何年もかけて研鑽を積むのと同様に、妥協することなく最高の音色を追究し磨き上げるベヒシュタインの質の高い仕事は、彼らの魅力と個性を最大に引き出すのです。
ピアノは講演後にご試弾も可能です
安井 耕一 プロフィール Kouichi Yasui Profile

札幌に生まれる。道立札幌南高校を経て、東京芸術大学音楽学部卒業。ピアノを横谷瑛司、水谷達夫各氏に師事、歌曲伴奏については戸田敏子氏の薫陶を受ける。1977年から85年まで西ドイツ、リューベック国立音楽大学にてコンラート・ハンゼン氏のもとで研鑽を積む。ハンブルクをはじめ各地で演奏会に出演する傍ら、同大学で伴奏講師も勤める。帰国後は札幌、東京などでリサイタルを重ね、室内楽、歌曲伴奏等活動を続けている。音楽工房“響”を主宰し各地でセミナーや講座を開催し若手の育成にも情熱を注ぐ。1993年から2007年まで東京芸術大学非常勤講師、2006年より国立音楽大学・大学院教授を勤める。
会場アクセス AccessAccess
- 宮地楽器 小金井店ショールーム
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〒184-0004
東京都小金井市本町5-14-10 -
【TEL】
042-385-5585 -
【営業時間】
10:00 ~ 18:00 -
【最寄り駅】
JR武蔵小金井駅北口 下車徒歩3分