高橋 明 経歴・工房紹介
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2007年のチャイコフスキーコンクールでの銀メダル、 2013年の Violino Arvenzis での優勝など、 多くの国際コンクールで輝かしい成績を残してきた高橋明さん。
いまやクレモナを代表する製作家となった超実力派、その素顔に迫ります。
13歳からヴァイオリン製作を開始
高橋さんは、幼少時から身の回りのおもちゃなど興味を引かれるものすべて、バラバラに分解してしまうような子供だったそうです。ご両親の教育方針で、ドライバーやドリルなど、小さな子供には危険と思われる工具でも、興味さえ持てばどんどん触らせる、というご家庭だったそうです。
初めて買ってもらったヴァイオリンも、中がどうなっているのか気になり、やがて我慢できずに分解。そこから製作家人生が始まったのかも知れません。
13歳でヴァイオリン演奏と製作を同時に始めた高橋さん、15歳の時に、何度もの失敗を経てようやく第1号のヴァイオリンを完成します。
その後、学生生活を送りながら、ほぼ独学でヴァイオリン作りを続けていきます。
大学卒業後、一度は設計士として働き始めた高橋さん。しかし、『趣味なら良い』と両親に言われていたヴァイオリン製作への情熱は、日に日に増していくばかり。
やがて、会社を辞めてクレモナへ渡る決心をします。
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街中の
マエストロたちが先生
高橋さんがクレモナの国立製作学校で最初に習ったのが、この Primo Pistoni (プリモ・ピストーニ)先生でした。
わずか一年間でしたが、トップクラスのマエストロに学べた貴重な期間でした。
思い返すと、とても面倒見の良い先生だったそうです。
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続いてお世話になったのが、Alessandro Voltini (アレッサンドロ・ヴォルティーニ)先生。製作はもとより修理も極めたマエストロ。生徒からの絶大な人気を誇る先生です。高橋さんは、この先生からクレモナの伝統的なスタイルを学びました。 そして、卒業時の研修でお世話になった、Sandro Asinari (サンドロ・アジナリ)先生。後に、師弟でありながら国際コンクールなどで順位を争うことも。 こうして出会ったマエストロたちから、良いと思う部分を吸収して自分のスタイルを探していきました。
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国際コンクールへの挑戦の日々
初めて製作コンクールに参加したのは2005年。チェコのコンクールでした。
製作コンクールでは、通常完成した楽器だけを提出して音や外観を審査してもらうのが一般的なので、製作者本人が現地に赴く必要がないものが多いのですが、このコンクールは珍しく現地での実技による審査も含まれていました。ヤスリを使わずにナイフだけでヴァイオリンのアウトラインを削ったり、25分以内に魂柱を作成して完璧に立てる、などです。
結果は、初参加で見事に優勝。合わせて最優秀技術賞も受賞しました。
このコンクールで高橋さんは確かな手応えを感じます。
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2007年に参加したモスクワのチャイコフスキーコンクールでは、菊田さんに次ぐシルバーメダルを受賞。第4位には天野年員さんも入賞し、日本人製作家が上位を独占。栄冠を分かち合いました。
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イタリア国内のコンクールにも積極的に参加。Pisogneコンクールでは、2009年にヴァイオリン部門で優勝、2010年にはヴィオラ部門でも優勝を飾ります。
さらに、難関のコンクールとして知られるスロヴァキアのViolino Arvenzisでは、2013年に音の最終審査で逆転優勝を飾ります。
この時、菊田さんは第3位。こうしてライバル菊田さんとお互いに切磋琢磨しながら、世界で活躍するマエストロとなった今も、挑戦を続けています。
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工房紹介
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現在は、クレモナの駅からほど近いところに、親友でありライバルでもある高橋明さんと共同で工房を開設しています。広い建物の1階部分ですが、壁などを立てて改装する前は、ダンスのレッスンができるくらいの広さでした。大掛かりな作業は内装業者の力を借りたものの、ほぼ2人の力で工房としての体裁を整えました。天井も高く、楽器の音も良く響くため、仲間が集まってお互いの楽器の試奏会となることもたびたび。
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クレモナは中世の街並みを残した美しい地方都市。
国内外からの観光客はもちろん、遠足の子供たちまでやってくるのですが、プロのヴァイオリン職人として登録しているとガイドブックなどに工房の住所などが掲載されるため、人々が見学にやってくることもしばしば。
いつか2人の工房にも、目を輝かせた子供たちがやってくるかもしれません。