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西村 翔太朗 工房だより 西村 翔太朗 工房だより

新作の製作過程や、日常での出来事など、
西村 翔太朗さんがクレモナから
近況を届けてくれています。

2021.03.21 クレモナの西村翔太郎さんより、超マニアックな投稿です!

こんにちは。久しぶりのご質問にお答えするコーナーです。
今回はマニアック度Max!クレモナの製作家でも知らない人がそこそこいる内容です。先日、私のアンティークフィニッシュの楽器を見た方から、横板の下部についている黒檀のパーツ(写真参照)は何かとご質問を頂きました。オールドを実際に手に取ったことがある方であれば、このパーツの存在を知っている方もいるかもしれません。皆さんがお使いの楽器には表板の下部に黒檀のパーツが付いており、しっかりとした大きさでテールピースを支えていると思います。このパーツは「サドル」や「枕木」と呼ばれています。そして、その下の横板には何もパーツは付いていないのではないでしょうか。1800年代初頭までのバイオリン製作では、せっかく表板の保護のために付けたパフリグを切断してまでパーツを付けるという概念がなく、サドルをパフリングの手前で止めていました。しかし、それでは強い力がかかるサドルの接着面積が狭くなり強度に問題が出てきてしまう為、接着面積を広げる目的で、横板にも黒檀のパーツを付ける、または一体成型で横板にまで一緒に接着する方法が採用されていたのです。ここまでお読みになって、更にマニアックな方は、ストラディヴァリなどにはこの形ではなく、半月状のものが付いている筈だとお思いになるかもしれません。実は半月状のパーツは、ヒル商会が1800年代後半から、ストラディヴァリやガルネリに現代の大きなサドルを付け替える時に、横板のパーツを成形しやすい半月状に取り替えていきました。その為、現在では殆どのオールドには半月状のパーツが付いているのです。しかし、数少ないオリジナルが残っているストラディヴァリには写真の様なものが付いており、また、必ずパーツの上からニスを塗っていたため、半月状に取り換えられた楽器でも、特殊なランプで見ると、この形状にニスの修理の跡が残っています。ガルネリの最高傑作であるカノーネにもこの形状にナイフの跡が残っており、1800年代初頭まで活動したクレモナ最後の製作家であるエンリコ・チェルーティにもこの形状のパーツが残っています。またベネツィア派の楽器にも見られることから、イタリア全土でこの形状が採用されていたと考えられます。現在では必要のないパーツですが、私の特定のモデルやオールド仕上げの楽器には、歴史へのオマージュとしてこの形状のものを取り付けております。このパーツは、楽器の専門書でも殆ど掲載されることも言及される事も無いため、あまり知られておりません。知っていると自慢できるかもしれません! (西村翔太郎)