新作の製作過程や、日常での出来事など、
菊田浩さんがクレモナから
近況を届けてくれています。
2024.10.16 菊田さんより、クレモナ・トリエンナーレの投稿です!
9月、クレモナで弦楽器製作コンクール「トリエンナーレ」が開催されました。
その名のとおり、3年に一度のコンクールです。
今回も、世界中からヴァイオリン174台、ヴィオラ55台、チェロ38台、コントラバス6台、計273台の楽器が集まりました。
結果は、チェロ部門でイタリア人のAlessandro Peirettiさんが優勝しましたが、他の部門では1位無しという、なかなか厳しいコンクールとなりました。
コンクールは楽器の外観と、音の両面で審査されますが、その両方で高評価を得ることは難しく、今回は、1位にふさわしい楽器はチェロだけという評価になったと思われます。
私も、ヴァイオリンとチェロで参加し、入賞は果たせませんでしたが、いろいろ貴重なご意見を伺うことができて、実り多いコンクールとなりました。
コンクールは、良い結果を目指すことも大切ですが、それ以上に、普段製作している楽器が公の場でどのような評価を受けるのかを客観的に知ることができる、貴重な機会と思っています。
今回の経験をもとに、足りない部分は改善し、良い部分はさらに伸ばして、今後も良い楽器を製作していきたいと思っております。
(菊田浩)
2024.08.16 クレモナの菊田さんの最新投稿をお届けします♪
7月に誕生日を迎え、63歳となりました。
2001年に40歳でクレモナに渡ったのですが、その時、ジオ・バッタ・モラッシー先生は66歳くらいだったと思います。
当時のモラッシー先生は、クレモナ中の製作家から慕われ、頼りにされ、威厳もあり、しかも元気で若々しく、まさにクレモナを代表する製作家でした。
気がつけば、私もその年齢に近付きつつあるわけですが、周りからどう見えているのか、気になるところではあります(笑)
もちろん、モラッシー先生の人間力には遠く及ばないことは自覚しているのですが、それでも、63歳という年齢にふさわしい人物像に少しでも近づきたいと思う今日この頃ではあります。
人間力はハードルが高いですが、少なくとも、「元気で若々しく」という点だけでもクリアできればと、早朝サイクリングなどを続けて、健康維持に努めていきたいと思っております。
モラッシー先生は、病気のため83歳で亡くなりましたが、その直前まで楽器製作をされていたと伺っています。
私も、その年齢まで現役を続けられることを目標に、あと20年、製作家として頑張っていきたいと思っております。
(菊田浩)
2024.05.01 楽器製作の際に心がけること、迷うこととは…菊田さんの最新投稿です!
ヴァイオリンを製作する時、葛藤と言うと大げさですが、いろいろ迷うことも多いです。
私の場合、次の3つのワードの間で揺れ動くことがあります。
それは、「音色」・「外観」・「耐久性」です。
写真1はヴァイオリンのアーチ(膨らみ)を削っているところです。
アーチは楽器の美しさの点で重要ですが、その膨らみ具合によって音色が変わるので、その両立を追及する中で、迷いが生じる時があります。
例えば、この部分を削れば音色が良くなると思っても、それでは外観のバランスが崩れてしまうとかです。またその逆の場合もあります。
そのジレンマと戦いながら、ようやくアーチが完成して、写真2のように厚み出しの作業となります。
厚み出し作業は外観には影響しませんので、音色だけを考えれば良い気がしますが、ここで問題になるのが楽器の強度、耐久性です。
板を薄く削れば、最初から良く響く楽器になりますが、薄くし過ぎると強度が不足して、時間とともに楽器が変形して音が悪くなりますし、ひどい場合は楽器が破損してしまいます。
そうならないように楽器の強度を保ちつつ、最高の音色を追及するために、厚み出しの作業はデリケートなものとなります。
また、作業によっては、外観と耐久性の両立に悩む場合もあります。
この三つ巴のバランスは、製作者によって考え方は異なりますが、私自身は、ラッザリ師匠の指導の下、「音色と外観を追及しつつも耐久性は犠牲にしない」というポリシーで製作しています。
100年、200年を耐え抜く強度を目指して製作した楽器は、最初からオールドヴァイオリンのようには響きませんが、力強く輝かしい音色を持っています。
そして年月とともに木材の経年変化による音響特性の向上により、長く愛される楽器に成長していくと考えています。
(菊田浩)
2024.02.01 菊田さんより、12月イベントについてお寄せいただきました!
ご挨拶遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
12月の宮地楽器でのイベント「日本人製作家の饗宴」には多くのお客様にご来場いただき、ありがとうございました。
展示会では楽器について多くのご意見をいただき、とても勉強になる時間でしたし、各種イベントではお客様と楽しく交流させていただきました。
中でも、「私の名器の物語」と題し、お客様の愛用楽器のエピソードをお伺いするイベントは、製作家としての立ち位置をあらためて思う、貴重な時間となりました。
弦楽器は、場合によっては人の一生よりも長生きするものですから、私がこの世を去ってからも、どこかで音楽を奏でて欲しいと思いますし、それはロマンでもありますが、自分が製作者として生きている間は、楽器が、オーナー様と一緒にどのような時間を過ごしているかを実感できることが、この仕事の醍醐味であり、喜びでもあると思います。
それは、ステージで演奏していただくことに限らず、日常の練習の中で、例えば1フレーズでも美しい音が出せて、その日を楽しい気分で過ごせるような、そんな時間を共有できる楽器として存在できたら、製作家としてこれ以上の喜びは無いのだと思っています。
2024年も、さらに良い楽器を目指し、精進していきたいと思っております。
また次回、展示会などでお目にかかれます日を楽しみにしております。
(菊田浩)
2023.11.01 9月にクレモナで行われた展示会について、菊田さんの投稿です。
9月22日から3日間、クレモナムジカが開催され、私もALI(イタリア弦楽器製作者協会)のブースにてヴァイオリンを展示しました。
ALIブースで師匠のニコラ・ラッザリ氏と一緒に楽器を展示できることは光栄なことでしたし、ラッザリ氏の奥様の伊東渚さん、兄弟弟子のメンタ氏、そしてメンタ氏の弟子の小寺秀明さんという、ラッザリ門下が勢揃いして楽器を披露できたのは嬉しいことでした。
また、故ジオ・バッタ・モラッシー氏の孫にあたる、ジュリオ・モラッシー氏をはじめ、若手製作家の成長が目覚ましく、次世代の製作家が着実に育っていることを強く感じたクレモナムジカとなりました。
会場の様子を動画でご紹介しましたので、ご覧いただけたら嬉しいです。ブログでも、写真で解説しております。
(↓ブログURLから、動画リンクへアクセスできます↓)
(菊田浩)
2023.09.16 ニス塗り前と後で音色はどれだけ違うか!?菊田さんの投稿です♪
通常、ニス塗り前の楽器、いわゆる「ホワイトヴァイオリン」での音のテストは行わないのですが、今回は新しいモデルで製作したこともあり、弦を張って試奏、録音してみました。
そして、ヴァイオリンが完成した後も同じ条件で試奏をして、ニスを塗ることで音がどのように変化するのか、比較する動画を作成しました。
ニス塗り前後で、厳密に同じ条件で録音することは難しいので、正確な比較とは言えませんが、微妙な音の違いを感じていただけるのではないかと思います。
ブログでの解説とともに、ぜひご覧いただけたら嬉しいです。
(菊田浩)
2023.08.16 菊田浩さんの工房だより、第一弾です!
7月に誕生日を迎え、62歳となりました。クレモナに留学した時の40歳から22年が過ぎ、さすがに体力や視力の低下を感じる年齢になりましたが、気力だけは衰えず、より良い楽器を目指して精進できる日々は幸福なことと思っております。1枚目の写真は最新作に貼ったラベルですが、130という数字は通算の製作台数になります。目標にしている200にはまだまだ遠いですが、焦らず、一台一台じっくりと仕上げていきたいと思っております。そのためには、体力の維持が大切ですので、2枚目の写真のように、競技用自転車でのトレーニングも続けていきたいと思っております。 (菊田浩)
2023.04.11 菊田さんより、春のイベントについての投稿です!
毎年、ベランダから見える桜が満開になると、5月に日本で開催される展示会の準備で慌ただしくなります。今年も、5月2日~3日には大阪市中央公会堂、5月20日~21日には池袋の自由学園明日館講堂で展示会が開催され、私もヴァイオリンを展示します。また、5月6日には宮地楽器小金井店内ホールにて、ヴァイオリニストの中西俊博さんをゲストに迎え、トーク&演奏イベントを開催いたします。詳細は、以下のブログ記事をご覧ください。会場にてお目にかかれますのを楽しみにしております。 (菊田浩)
2023.02.11 クレモナより、菊田浩さんの近況です♫
早いもので2月も半ば、クレモナも寒い日が続いています。3年前の2月、クレモナ近くの町コドーニョで初のコロナ感染者が確認され、ヨーロッパのパンデミックが始まりました。クレモナも都市封鎖になり、許可証なしでは外出もできない生活が続きましたが、その不安だった日々も過去の記憶になりつつあります。町に出てみると、大聖堂前は社会見学の子供たちで賑わっていて、少しずつ、クレモナも以前の風景に戻っていることを実感します。まだ予断を許せない状況ですが、世界のコロナ禍が、このまま収束に向かっていくことを祈っています。 (菊田浩)
2022.12.11 菊田浩さんより、先日のフェアについて寄稿して頂きました♪
12月2日から3日間、「日本人製作家の饗宴」と題された展示会にて、ご来場のお客様と3年ぶりに楽しく交流させていただきました。また、宮地楽器小金井店のホールで数多く開催されたイベントも盛況となり、参加した製作家9人にとって、大変勉強となる貴重な経験となりました。ご出演された演奏家の皆様、宮地楽器スタッフの皆様、そして御多忙の中ご来場いただきましたお客様に、厚く御礼申し上げます。この経験を糧に、今後もさらに良い楽器を目指して精進したいと思っております。また来年、展示会やイベントなどでお目にかかれます日を楽しみにしております。 (菊田浩)