新作の製作過程や、日常での出来事など、
天野 年員さんが京都から
近況を届けてくれています。
2022.10.01 製作家・天野年員さんの最新投稿です!
写真はスクレーパーという道具です。上がほぼ新品で、下が研ぎ減って小さくなった物です。「使い込んだ道具は手放せないんだ」と自慢したいところですが、冷静に考えると、小さくなったことで繊細な作業はしやすくなった反面、力を入れにくい、しなりやすいなどの欠点も見えてきます。それでも慣れた道具が使いやすく感じるのは、道具が変化したというよりも人が道具に慣れたからだと思います。バイオリンの世界でも「弾き込めばバイオリンは鳴るようになる」という言葉がありますが「弾き込めばバイオリンを鳴らせるようになる」と言ったほうが的を射ている気がします。次回はもう少し「弾き込めば鳴る」を職人の視点で掘り下げたいと思います。 (天野年員)
2022.08.21 製作家・天野年員さんより近況をいただきました♪
前回の「響板の厚いのを選んで弾き込むことで鳴らすんだ」の続きです。響板の厚い(丈夫過ぎる)バイオリンは音が細く特に低音域は響きません。でも弓圧を掛けて弾くと音が潰れにくく力強い印象を受けます。結果、奏者は常に強めの弓圧で弾くことに慣れていきます。そういう弾き方が身に付いたときに「弾き込んだから鳴ってきた」と感じるのでしょう。常に強い弓圧で演奏したくて選んだのであればそれで正解です。でも、一本調子の演奏になりがちだったり、ホールで聴くと思っていたより小さい音量だった、といった経験をすることになるはずです。その時に違うタイプの楽器を試してみましょう。演奏の道具について考えるよい機会になるはずです。 (天野年員)
2022.07.11 天野年員さんから近況が届きました!
高校時代に初めて履いた革靴が懐かしくなり、同じ靴を買いに行きました。店員さんの「最初から履きやすいサイズを選ぶと後に大きすぎになります」という言葉も30年前に聞いたような…、でワンサイズ小さいのを選びました。しばらく履いてみるとアドバイスのとおり、きつさは和らいできました。バイオリンの世界でも似た内容で「最初からよく鳴るバイオリンは後に鳴らなくなるので、響板の厚いのを選んで弾き込むことで鳴らすんだ」という話があります。でも、私が観察してきたかぎり、バイオリンは革靴のようにはいきません。次回は「響板の厚いのを選んで弾き込むことで鳴らすんだ」を職人の視点で掘り下げてみたいと思います。お楽しみに! (天野年員)
2022.05.21 京都の製作家・天野さんからの近況です!
私の工房は、茶道の三つの千家が徒歩で行ける場所にあります。先日、茶道の心得のある方と話す機会がありました。お茶会では茶道具の作者を必ず尋ねるんですね。「茶碗はどなたのお作でございますか」といった具合に。格式の高い茶席には相応の格の道具を用意するとか。私はバイオリニストがなぜイタリアンオールドにそこまでこだわるのか、音響性能や弾きやすさを優先するならイタリアンオールド一辺倒にならないはずなのにと、ずっと疑問に思ってきましたが、理由は「楽器はどなたのお作で…」ですね。なるほど、茶道は世の中を小空間で再現しているかのようです。バイオリンも単なる演奏の道具ではなく、奏者の品格を保つ役割を担っていたのです。 (天野年員)
2022.03.27 京都の天野さんより、近況が届いております!前回に引き続き時計のお話のようですが…
前回のコラムで紹介した無残な姿になってしまった腕時計が、メーカー修理から戻ってきました。約30年前のものですが、外装以外は故障もなかったので新品のようになりました。感激!じつは目覚まし時計も同じメ―カーの物を25年以上使っているのですが、ソーラー充電もアラームも機能していて、クレモナ在住時代も毎日私の起床をサポートしてくれました。まだまだ現役で働いてもらうつもりです。どちらも高価な品ではありませんが、なかなかやるじゃないかと感心しています。メーカーは建前上「永年のご愛用を…」と言うでしょうが、本音は「もう勘弁してくれ」かもしれませんね。(笑) (天野年員)
2022.02.15 京都の製作家・天野年員さんより近況が届きました!!
最近、加水分解という言葉を耳にすることが増えましたね。このような専門用語が身近になったのは、身の回りで加水分解が頻発するようになったからではないでしょうか。靴底がペロッと剥がれたり、樹脂部がベタベタたしたり脆くなったりするあの現象です。私たちが仕事で使う道具では、このクランプがわかりやすく次々と破損していきます。腕時計も無残に朽ちてしまいました。耐久年数はざっと10~15年といったところでしょうか。10年もてば仕方ないと思う一方で、金属部分は何の問題もないだけに捨てられないでいます。調べてみると腕時計は修理受付してくれるというので依頼してみました。修理後の姿を次回お披露目したいと思います。お楽しみに! (天野年員)
2022.01.06 京都在住の製作家・天野さんより近況が届いております!
ここ数か月で楽器製作で使う小刀を新しくしました。写真の右から3本がそれで、それ以外は過去に使ってきたものです。良い刃物は研ぎやすく切れ味が持続するのでつい手が伸びますが、そうでない物は出番が減りやがて使わなくなってしまいます。楽器作りは同種の木材で同じ作業を繰り返し行うので、同条件で刃物を比較することができ、品質の差がよくわかるのです。バイオリンも演奏の道具として性能で選べばシンプルな話なのですが、小刀のようには明解に分からないから迷いますよね。まずは先入観をもたずに試奏をしてみましょう。宮地楽器のスタッフの方達は演奏が達者ですので、ぜひ相談してみてください。 (天野年員)
2021.11.15 京都在住の製作家・天野年員さんより近況が届いております!
写真は完成直前の工程で魂柱を立てているところです。完成して弾いていただくのを想像しながら、音づくりの仕上げとして納得いくまで調整します。楽器店のようにバイオリンが沢山ある環境にいると気がつくことをひとつ。例えば5~6人が試奏されると過半数の人は同じバイオリンを長い間手にしているんですね。音は形のないものですが料理の味と似ていて、人の好みはそれほどバラバラではないようです。店員さんはそういったことを知っていますから、そっと尋ねてみると教えてくれるかもしれません。宮地楽器小金井店の11月のプレミアム商談会にぜひいらしてください。 (天野年員)
2021.09.15 京都在住の製作家・天野年員さんより近況が届いております♪
最近、運動不足の解消に週に2回ほどですが1時間を目安に歩くようにしています。良く使う散歩コースの橋を歩いていると見える松の木、ふとどこから生えてるのかなと覗いてみると、なんと!コンクリートのすき間から生えているじゃないですか。調べてみると「ど根性松」という名で良く知られているようです。確かにど根性ですが、気負わない姿とほどよいミニチュア感が好きで、通るたびに気になって見てしまいます。このコラムも250字程度の限られたスペースしかないのですが、この松のように何か気になる存在になれればなと思いました。 (天野年員)
2021.07.25 京都在住の製作家・天野年員さんより近況が届いております♪
バイオリンのニスが仕上がったのでパーツをセットしていくところです。作業前の魂柱とエフ字孔から見た魂柱の写真です。魂柱の長さや位置は音に大きく影響し、技術や経験が問われる作業です。これを立てることでバイオリンに魂が宿るといった精神的な思考で作業すると本質から遠のいてしまうので、仕事中は一種の柱だと考えて、まっすぐに狙った位置に立つよう正確な作業を心がけています。皆さんは魂柱という文字を見て、魂と柱のどちらに惹かれますか。ついつい得意な方に偏りそうですが、心も技もバランス良くが一番ですね。宮地楽器小金井店ではたくさんの手工楽器が試奏できます。ぜひお試しください。 (天野年員)